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キック力とは何か


■蹴り足と速度の反発比がポイント

 パワフルで強烈なシュートを打つためには、ただ力いっぱい蹴ればいいのだろうか?  ことはそれほど単純ではない。身体資源を最大限に生かし、大きなエネルギーを効果的にボールに伝達する必要がある。言い換えれば、合理的に身体を使うことにより、小さな選手でも大きな選手と同等かそれ以上のシュートやキックが可能なのである。
 また、遠くにボールを飛ばす場合でもボール速度は重要である。基本的には、ボール速度と飛び出し角度によってボールの飛距離は決まるからである。したがって、ボールの初速度イコールキック力と考えることもできる。
 物理学的原理からみれば、キック後のボールの速度は、蹴り足(本書では「足」と「脚」を使い分けているのでご注意いただきたい。「足」は足首より下の部分、「脚」は腰より下の全体を表す)の速度、ボールと蹴り脚の反発比(跳ね返りの比率)、ボールの重さ、蹴り脚の重さの4つで決まる。しかしボールと蹴り脚の重さは大きく変わることはないだろう。そうすると、いかに大きなパワーを生み出して蹴り足の速度を高め、そのパワーをムダなく、つまり高い反発比でボールに注入するかが、キック力のポイントとなるわけだ。

■キックは全身運動

 では、インパクト前の蹴り足の速度について考えてみよう。インステップキックに関する多くの実験的研究において、ボール速度と蹴り足の速度には、直線的な相関関係があることが認められている。つまり、蹴り足の速度が2倍になれば、ボール速度も単純に2倍になるわけだ。

 では、トップレベルのプレーヤー達はどのようにして、大きな蹴り足の速度を得ているのだろうか?
 サッカー選手の多くは、非常に脚の筋肉が発達している。そこから、脚の筋肉を鍛えれば大きなエネルギーを発生させることができ、蹴り足の速度が向上するように思えるが、実はそれだけではまったく不十分なのである。

 静止したサッカーボール、すなわち秒速0mのボールをキックして秒速30mに加速するのに、わずか0.01秒しかかからないことがわかっている。では、このときキッカーはどのくらいのパワー(仕事率)を発揮しなくてはならないのだろうか?
 詳細は省くが、ボールの質量を0.45kgとすると、20250w(ワット)となる。よくトレーニングされた人間の筋肉1kgあたりのパワーを250w程度と仮定すると、それだけのパワーを発揮するためには、81kgkの筋肉が必要な計算になる。しかし、体重81kgの人間の片脚の質量は、軟骨組織を含めてもせいぜい14kg程度なので、片脚の筋肉の持つエネルギー供給能力だけでボールを秒速30mに加速させることは、到底不可能なのである。

 つまり、大きなボール速度を得ようとする場合、大きな筋肉のある胴体や他の部分からのエネルギー伝達が不可欠なのである。実際、大腿部を動かないように固定して、膝の筋肉だけでボールをキックすると、その速度は15mにさえ達しないのだ。

■いかにロスなくボールにパワーを伝えるか

 いかに全身運動で大きなパワーを生み出すことができても、そのパワーをボールに伝達できなくては大きなボール速度を得ることはできない。物理的に言えば、大きな反発比でボールをインパクトしなくては、大きなボール速度を得ることができない、ということになる。

 例えば、空気がいっぱいつまったボールは内部気圧が高く跳ね返りも大きい。つまり反発比が大きい。逆に空気の抜けた軟らかいボールは内部気圧も低く跳ね返りも小さい。つまり反発比が小さいということになる。しかしサッカー競技に用いられるボールの企画は、FIFAの規則で決まっていて一定だ。したがって、インパクトする蹴り足の状態や特性が、大きな反発比を得るためには重要になる。

 直接肉眼で捉えることは難しいが、高速度VTRでボールキックを撮影すると、インパクト時には、ボールと共に足関節を中心とした蹴り足も変形していることがわかる(映像1)。骨や筋、靭帯、関節など、人体組織のほとんどは粘弾性(物体に外力を加えると変形するが、力を除くともとの形に戻る性質)を持つと考えられ、こうした変形はパワーロスにつながる(もちろんパワーロスがなければ変形しても問題ない)。
 簡単に言えば、スポンジのような軟らかいバットでボールを打つより、金属の固いバットでボールを打った方が飛ぶということである。

 つまり、大きな反発比を得るためには、インパクト時の蹴り足の変形を最小限に抑えることが重要で、そのためには、足部の筋を緊張させ足関節などを固定させる必要があるのだ。

■いかにスピンをかけるか

 一流選手は、全身運動によって生まれたパワーをボールに注入し、強烈なシュートを放つが、カーブキックの場合、それに加えてボールにスピン(回転)をかける必要がある。
 実は、野球のカーブボールの回転数が毎秒30回転程度であるのに対して、カーブキックは毎秒5~10回転程度である。しかし、回転数自体は少ないものの、ボールの直径が約23cmもあり、スピンの影響は野球のボールよりも大きい。カーブキックの場合、ボール速度が秒速25m、毎秒8回転で、横に3m以上も曲がるのである。

■ボールが曲がる理由(マグナス効果とニュートンの作用反作用)

 カーブキックが曲がる理由は、基本的に野球のカーブボールと同じであり、スピンが重要な役割を果たしている。
 回転する球体に生まれる横方向の力について初めて述べたのは、ドイツの物理学者であるグスタフ・マグナス(Gustav Magnus)が1852年に行なった研究であると言われている。当時のマグナスは回転する砲弾や弾丸の弾道について研究をしていたが、その原理は他の回転する物体にも適用可能なものであり、発見者の名前をとってマグナス効果(Magnus effect)と呼ばれ、広く知られるようになったのである。
 では、マグナス効果とは何か?
 ボールが空気中を飛ぶ場合、ボール表面数ミリメートルの空気の層は、表面に張り付いた状態でボールとともに移動する。この空気の層を境界層と呼ぶ。

 ボールが回転しながら飛ぶ場合、何が起こるのかというと、ボールの片方の側面は、ボール周りの流れと同じ方向に移動するが、もう一方の側面は、ボール周りの流れと反対方向に移動することになる。そのとき、回転方向と同じ方向に流れる側面の流体の速度は大きく、反対方向に流れる側面の流体の速度は小さくなる。
 こうして生まれた相対的な速度差によって、ボール側面には圧力差が発生する(ベルヌーイの定理)。
 すなわち、速度の速い方は圧力が小さく、遅い方は圧力が大きい。このアンバランスな圧力差がマグナス効果と呼ばれ、ボールの進行方向に対する横方向の力(揚力)となって働き、コースが曲がっていくのである(圧力が小さい方に曲がっていくのは言うまでもない)。

 また、ボールの後ろの流れを見るとわかるように、ボールの周りの流れが側面(境界層)から剥がれる位置(剥離点)が、場所によって異なっている。回転方向と同じ方向に流れる側面は、反対方向に流れる側面に比べて流体と接している距離が長く(剥離点が後方にくる)、その結果、ボールの後流が斜め横方向に流れることになる。
 これは、舟が舵を斜めにして方向を変えるのは同じ原理であり、その斜め方向の反作用(ニュートンの作用反作用の法則)によってボールは横方向の力を受け、コースを変えることになるのである。

■どのようにカーブをかけるか

 スピンによって、マグナス力と後流の反作用力が働き、ボールがカーブすることはわかった。では、フリーキック時にカーブをかけるにはどうすればいいのだろう?
 また、カーブボールにはどんな効果があるのだろう? カーブキックのボールの回転は、2つの方法によって生み出すことができる。インパクトの中心をボールの中心から少しずらす方法と、ボール表面と蹴り足との摩擦力を使う方法である。

 サッカーの指導書や教科書に、カーブキックの蹴り方について「ボールの横をこすり上げる」などと書かれてあるのは後者を指している。「こすり上げる」というと、摩擦力が重要であるようなイメージを持つが、実際の効果は最大で3回転アップ程度である。

 基本的には、インパクトする面の方向(スイングベクトル)とスイングの方向(スイングベクトル)をずらすことにより、ボールに回転力が生まれることになる。
 また、インパクトの中心をずらすことによっても回転力が生まれるので、アウトフロントカーブキック等では、その働きを利用するのが効果的である。しかもボールの中心から横にずらした距離(オフセット距離)によって回転数が変わるので、目的に応じて調節できる。

■回転数は多ければ多いほどいいのか

 ボールの回転数が多いほどボールは大きく曲がる。
 しかし、大きく曲がるからといって、それが良いカーブキックとは限らない。なぜなら、同じパワーでカーブキックを蹴った場合、エネルギーが回転に使われれば使われるほど、ボールの速度は下がってしまうからだ。

 図1はアウトフロントカーブキックを解析した例であり、ボールの回転と速度は、ボールの端以外は反比例の関係にあるといえる。
 この反比例の関係をコンピュータシュミレーションで分析した結果、最高ボール速度の80%以上の速度を得るためには、ボール半径の中心より内側に約2~3cmずれた、比較的ボールの中心に近いポイントをインパクトすればいいことがわかった。

出典:「サッカーファンタジスタの科学」より (浅井武: 第1章ファンタジスタのプレーを解析する,サッカーファンタジスタの科学(浅井武監修),光文社,pp. 14~55,2002.)



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